日本の子どもたちがNBAを諦めざる得ない環境を変えたい

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日本のバスケットボールプレイヤーに伝えたいこと

行動し活躍する人をインタビューし、「先を進む姿を指針に、夢を叶える一歩を踏み出そう!」と、たった一人の熱狂から世界が動き出す「On the One 」。今回の取材でお話を伺ったのは、2021年4月から地元でバスケットボールスクールを開講される加藤 稔樹さん。日本の子どもたちがNBAを諦めざる得ない環境を変えたいと、これまで行われてきた日本式の指導に一線を画す、その想いを取材しました。


(撮影:前田 幸星)


加藤 稔樹さん
1993年生まれ。静岡県出身。幼少期からバスケットボールを始め、大学卒業後バスケットボールのコーチをしにアメリカへ留学に行き、本格的にアメリカでバスケットボールのコーチングの道に進もうとしたが、アメリカで1回入国制限に逢い、その夢は途絶えてしまう。その後、日本に帰国後、キエルキンの営業の仕事に就く。2021年4月から静岡県静岡市清水区で、小中学生のバスケットスクールでコーチングを開講予定。

今やれることをまず始める

myicon編集長 ケンフィー今、バスケットボールのコーチングの方はどうですか?

tartgeticon加藤 稔樹さん小学生とか中学生のバスケットボールスクールをやっている人がいて、「その人のスクールを引き継がない?」と言われたので、それを本格的にちょっとやろうかなと思っています。

myicon編集長 ケンフィー日本でコーチング始められるんですね。

tartgeticon加藤 稔樹さん はい。元々はアメリカ行ってからスクールをやろうと考えていたんですが、とある方から「とりあえず今できることから始めてみて、もしアメリカに行く必要があったら、もう1回アメリカに行くタイミングは来るから」と言われたんです。その話を聞いたら、「まずは日本でコーチングをやってみよう」と思いましたね。

myicon編集長 ケンフィー元々はコロナが明けたらアメリカに行く予定だったんですか?

tartgeticon加藤 稔樹さんそうです。コロナ明けたころにTOEFLという資格を取って、アメリカの大学院で勉強しながら、コーチングを行う予定でした。僕がアメリカにいた頃にお世話になったコーチには、教え子にNBA選手もいるんですが、コーチとその教え子のNBA選手からGAポジションの推薦状をもらって、学費と旅費を免除してもらうつもりでしたね。

myicon編集長 ケンフィーそこまで考えていたんですね。

tartgeticon加藤 稔樹さんだから、ある程度、日本でお金を貯めて十分向こうで暮らせる状況で、それをカタチにしようかと考えたんですが、結局コロナの影響で渡米できないし、十分お金が貯まるのがいつになるのかも分からないこともあって、今できることから始めようと思いました。

myicon編集長 ケンフィー確かにコロナがいつ収束するか分からないですよね。

tartgeticon加藤 稔樹さんあと「アメリカの大学院を卒業する時には32〜33歳になってしまう」という話をしたら、「それだったらやりたい方向に向かって1歩進み出してみて、アメリカに行くのが絶対に必要だったら、アメリカに行く機会がもう1回来るよ」と言われたのも大きいですね。

myicon編集長 ケンフィーそれで4月からスクールを開講されるんですね。どんなことを教えようと考えていますか?

tartgeticon加藤 稔樹さん僕が4月からのスクールで教えたいことは、バスケットボールのスキル以外に3つあります。それがクリティカル思考とマインドフルネス、レジリエンスです。

myicon編集長 ケンフィーそれぞれどういうことでしょうか?

スクールで伝えたいこと

tartgeticon加藤 稔樹さんまずクリティカル思考で、前提を疑う力を身につけて欲しい。例えば今、日本のバスケットボールの練習では、持久力をつけるのが当たり前とされていますが、サッカーと比べてコートが狭い上に、ゴールが上にあるバスケットボールでは、上に飛ぶ能力を身につけた方が効率よく得点しやすいんです。そういった前提を疑って、自分たちなりの戦略を立てられるプレイヤーを育てたいですね。

myicon編集長 ケンフィー前提を疑うことで、今まで思いつかなかった戦略も思いつくようになるということなんですね。

tartgeticon加藤 稔樹さんそうです。次にマインドフルネスでは、掲げた大目標を細分化し、まずやらなければいけないファーストステップに注力できるような環境を整えて、1回1回の練習時間を最大限に活かせるような取り組みを行っていきたいです。

myicon編集長 ケンフィーバスケットボール以外でも大事なことですよね。

tartgeticon加藤 稔樹さんそうなんですよ。この目標と現在の行き来をできる能力って、バスケットボール以外でも活きてくるので、それをバスケットボールの練習を通してを身に付けてほしいです。

myicon編集長 ケンフィーなるほど。

tartgeticon加藤 稔樹さん そしてレジリエンスは、「立ち直る」「回復力」という意味ですが、人生の中で、アスリートとしても人としても、絶対にうまくいかない瞬間はあると思うので、何かにぶち当たって跳ね返される瞬間とかに、自分で立ち上がれるようになって欲しいです

myicon編集長 ケンフィーメンタル面の強化は、トップアスリートを目指す上で必要なスキルですね。

tartgeticon加藤 稔樹さんそこで立ち上がれるかどうかが、すごく大きいと思っていて、僕の人生系経験の中では根拠がない自信がベースにあるんですよ。だからスクールでは、「人より劣っている」よりも「昨日と比べてどれだけ成長したか」を大事にしたいです。

myicon編集長 ケンフィー確かに人と比べていると、ずっとその人を追っていくという形になるので、メンタル面でコントロールしづらくなりますね。

tartgeticon加藤 稔樹さん他人が伸びているときは、人と比べることで成長できるかもしれないですが、もし追いついた場合はそこで成長は止まりますし、もしずっと追いつけない場合、「自分は劣っている」と感じて傷ついていくと僕は思っていて、だからその人にとって自分がどれだけ進んでいるかというのを基準してほしいんですよ。

myicon編集長 ケンフィーなるほど。前提を疑って戦略を作り、そのために必要なことを考えて実行し、自分の成長にフォーカスして評価していくという感じですね。

tartgeticon加藤 稔樹さんクリティカル・シンキングと、マインドフルネスとレジリエンスという3つをスクールの軸に、僕のスクールではトップアスリートを目指すというのを具体的に打ち出したいです。トップアスリートを目指す中で、身体能力はもちろんメンタルや思考のレベルも向上するんですが、身体能力以外は他の分野でも役に立つので、トップアスリートを目指すことに妥協してはいけないと思っています。


(右:加藤 稔樹、左:ケンフィー、撮影:前田幸星)

トップアスリートを目指すということ

myicon編集長 ケンフィー具体的にはどうやってコーチングしようと考えていますか?

tartgeticon加藤 稔樹さんボディコンタクトを鍛えて、コンタクト後のプレーの質を上げ、指導の中に英語を少しずつ混ぜて、英語に慣れてもらおうと考えています。具体的には身体能力を高めて、ボールを操る力を上げるというのを段階的に行いながら、基礎を上げるような指導をしていこうと思います。それと最終的に試合形式で使えないと意味がないので、基本的に試合形式の練習を最後に取り入れます。ただ対外試合はやらない予定です。日本の中だとそのような練習をしているところがなく、お互いに高め合えるという相手がいないので、今は対外試合が必要ないと思っています。

myicon編集長 ケンフィーもし同じような練習しているようなところが増えてきたら、対外試合も検討されますか?

tartgeticon加藤 稔樹さんそうですね。もしあれば(対外試合を)やりたい。でも日本人の高校の決勝やプロの試合を見ていても、そのような練習がされているように思えないので、しばらくはないと思っています。

myicon編集長 ケンフィーなるほど。やっぱりトップアスリートを育成するのに妥協しないというのは本当に大切なことだな感じますね。あとトップアスリートを目指しているプレーヤーにとって、「この教え方が悪かった」と言われたらどうしようもないので、指導方法や環境が言い訳になったらいけないですよね。過ぎた競技人生は取り戻せないので。

tartgeticon加藤 稔樹さん自分で自分を管理しないとプロにはなれないので、状況判断をするためには周りをしっかりと見て情報収集しないといけないんです。身体能力以外や、競技に特化した技術以外は、これからの時代で必要なものです。だから僕は「トップアスリートを目指して育てます」と宣言して、スクール生もそこに向かって突き進んでいってほしいというのは妥協しないし、彼らの両親にもそこは理解してほしいと思っています。

myicon編集長 ケンフィートップアスリートになれるのはごく一部のプレーヤーだけですが、トップアスリートを目指す過程はこれからの時代で必要になってくるスキルになるからこそ、妥協なく教えたいということなんですね。

tartgeticon加藤 稔樹さん そうです。競技人生を木の幹に例えると、その幹は思考や目標設定、その競技に対する想いみたいなもので、バスケで言えばバスケットボールは多分葉っぱの極一部なんです。その幹の部分を自分で考えて、自分で成長していくーーそれが、さっきのクリティカル思考とマインドフルネスとレジリエンスの部分だと思うから、そこを身に付けてトップアスリートを目指せるようなスクールを築いていきたいなと思います。

myicon編集長 ケンフィー素敵な想いを是非カタチにしていってください!応援していますね。今日は、お話ありがとうございました。

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(取材協力:加藤 稔樹さん(Facebook)/撮影:前田 幸星(Facebook)/取材・編集:ケンフィー)