大石朱美さんが「いい匙かげん」で牛すじ煮込みを提供するまでの軌跡

この記事は約15分で読めます。


人と違うものを求めてたどり着いたキッチンカーの形

たった一人の熱狂から世界が動き出す想いをインタビューする「On the One」。今回お話を伺ったのは、キッチンカーで静岡牛の牛すじ煮込みを提供する大石朱美さん。趣味の車さがしからキッチンカーを始めるまでの物語を伺いました。


大石 朱美さん
1973年生まれ。静岡県出身。
元々はウエディングプランナーの営業の仕事に従事していたが、結婚をきっかけに退職。育児が落ち着いたタイミングで、別の職に就くが、趣味の車をきっかけにキッチンカーの準備を進めることになる。
現在は「いい匙かげん」のキッチンカーで、静岡牛を使った牛すじ煮込みを販売し、2023年7月で2周年を迎えた。

たまたま見つけた車に惹かれてキッチンカーを始めた

myicon編集長 ケンフィー「いい匙かげん」のキッチンカーを始めたきっかけはなんですか?

”"大石 朱美さん画像検索で一目惚れした軽自動車を作っている時に、その検索時に出てくるキッチンカーをいずれはやりたいなと思っていました。

myicon編集長 ケンフィー当時は、別にお仕事されていたという感じですか?

”"大石 朱美さん元々はウエディングプランナーの仕事をしていました。ですが、子育てのタイミングで一時期仕事から離れていました。ただ育児が落ち着いたら、サービス業に戻りたいという気持ちがありましたが、年齢的にウェディングプランナーに戻るのは厳しかったですね

myicon編集長 ケンフィーウェディングプランナーって年齢も大事なんですね。

”"大石 朱美さんあとは当時と結婚式の形式も変わってきているので、それに対応できるか心配だったのもありました。

myicon編集長 ケンフィーなるほど。

”"大石 朱美さんでも、サービス業をしたいという気持ちがあり、自分で何かできないかなと思っていたこともあって、おしゃれな車を見つけて、キッチンカーをやろうと思いました。

myicon編集長 ケンフィーキッチンカーをやろうと思って車を探していたわけではないとのことですが、車を検索していたのは、どういった経緯からですか?

”"大石 朱美さんマニュアルの軽自動車の新車が少なくなってきたというのもあって、次に乗る車を画像検索していたら、たまたま東京モーターショーで出ていた車の形が、めちゃめちゃ可愛くて。やっぱり、できれば人と違うもので、可愛いものがいいなと思うので
それで検索すると同時に、キッチンカーが出てきたという感じです。

myicon編集長 ケンフィー趣味の車を調べていたら、たまたまキッチンカーがヒットして、キッチンカーを始めようとなったんですね!

”"大石 朱美さんそうですね。いずれはサービス業をやろうと思っていたのと、バイクのヘルメットに絵を描いてくれる方の旦那さんがキッチンカーを作っているというのを聞いていたことが大きいです。

myicon編集長 ケンフィー素敵なご縁ですね。

”"大石 朱美さんその後、本格的に話が進み始めていて、「工場ができたら、私のキッチンカーを1号車にしてよ」っていう会話をしていたので、「やりますか!」ってなりましたね。

myicon編集長 ケンフィーその時は、まだ何をやるかは決まっていなかったということですか?

”"大石 朱美さんそうです。車を見つけたときは、全然決まっていなかったですね。ただ、ぼんやりと「牛すじ煮込み」をやってみたいなっていうのはありました。

いい匙かげんの牛すじ煮込みへのこだわり

myicon編集長 ケンフィー「牛すじ」をやってみたいと思ったきっかけってなんですか?

”"大石 朱美さんうちの家の近くに、ファーマーズマーケットがあるんですが、そこを立ち上げた人が、元々は静岡牛を扱ってる牛屋さんだったんですよ。
「自分たちの牛肉を買ってほしい」ということで、ファーマーズマーケットを立ち上げたというのを聞いていたのと、人と違うものじゃないと勝負できないっていうのもあって、その静岡牛を扱おうと決めましたね

myicon編集長 ケンフィー「牛すじ煮込み」の発想は、どこから考えたんですか?

”"大石 朱美さん何をやろうと考えたタイミングで、カレーやどて煮は長時間煮るには向いていないから、キッチンカーでやるには難しいなと思って、じゃあ独自に作るしかないかとなりました。

myicon編集長 ケンフィー商品開発から始めたというわけですね。

”"大石 朱美さんいろんな人に食べてもらって、味を決めました。

myicon編集長 ケンフィーやると決めてからの行動力が素晴らしいですね。

”"大石 朱美さんそれで「牛すじ煮込み」にしましたが、前例がないもんだから、調理方法に苦労しましたね。

myicon編集長 ケンフィー牛すじを使った煮込み料理ってなかったんですか?

”"大石 朱美さん静岡おでんには、牛すじは入っていますが、牛すじが溶けちゃうと売り物にならないから、軟骨に近い感じの牛すじを使っているんですよね。
でも私が仕入れることができる牛すじは、成形する時に出てくる端の牛すじなので、とろとろに溶けてしまうんですよ

myicon編集長 ケンフィーそれでレシピも開発されたということですね。

”"大石 朱美さん車が決まる前から、少しずつ味見してもらったりしてましたね。

myicon編集長 ケンフィー長い期間かけて、いろいろと試されて辿り着いた味なんですね。

”"大石 朱美さん試しましたね。でも、試作の時は少ししか作らないから、その時は美味しいと思っても、仕事として大量に作るとなると、それが続けられるかは、別問題だったんだよね。

myicon編集長 ケンフィーなるほど。いろんな課題を乗り越えてきたんですね。

露店出店からキッチンカーまでの怒涛の展開

”"大石 朱美さん2020年の夏ごろに、キッチンカーに向けて動き始めたという感じですね。
ちょうど、そのタイミングで、ランタンイベントのスタッフに参加したんですが、そのイベントで出逢った方々にも応援してもらえることになりましたね

myicon編集長 ケンフィー僕と出会ったのもちょうどその頃ですもんね。

”"大石 朱美さんそうですね。その翌年の2021年10月に島田でランタンイベントを開催する時に出店させてもらえることになりましたね。

myicon編集長 ケンフィー確か、その時が初めての夜の出店でしたよね。

”"大石 朱美さんそう。その時はまだ露店出店でしたけどね。

myicon編集長 ケンフィー懐かしいですね。車ができるまでは、「お茶のさすき園」さんのところでよく出店されていたのを覚えてます。

”"大石 朱美さん車を作る参考として、「お茶のさすき園」さんのコンテナハウスをちょっと貸してもらって、試験的にやろうと思って相談しに行ったら、「2週間後にやってみよう」と言われましたね。

myicon編集長 ケンフィー準備されてから相談に行かれたんですか?

”"大石 朱美さんいえ、相談に行った時は何にも決まってませんでした。相談に行った時に出店していたお店さんが、あと2週間で立ち退くため、入れ替わりでやってもいいよということでしたが、2週間の間に露店を取って道具を揃えたりと、バタバタした状態でしたね

myicon編集長 ケンフィー急に決まって、急遽準備を始められたんですね。

”"大石 朱美さんそう。だから、当時はまだ仕事もしていたので、土日しかなかったですが、「やるしかない」と思って、準備を進めましたね。

myicon編集長 ケンフィーいつ頃、キッチンカーを本業にされたんですか?

”"大石 朱美さん確か、2021年7月に「お茶のさすき園」さんのコンテナハウスでやらせてもらって、全ての土日に出店していたこともあって、ものすごく忙しくなってしまって、本業がおろそかになり、夢にかけてみようと思って、その翌月8月に仕事を辞めましたね

myicon編集長 ケンフィー土日の出店以外にも、出店の申し込みなど、手続きがありますもんね。

”"大石 朱美さんそう。申し込みもそうですし、ポップ作りなどの細かな作業も意外とありましたね。シール付けも、夜中にやっていたりと、かなり大変でした

myicon編集長 ケンフィーそれにプラスして、家のこともやらないといけないですもんね。

”"大石 朱美さん勢いで始めちゃったので、なんだかよくわからない状態でしたね。

myicon編集長 ケンフィーそれで、コンテナハウスで露店を始めて、1,2ヶ月後にキッチンカーの方が本業になったわけですね。
今ではキッチンカーの方も、うまく回り始めていますし、結果的にいいタイミングだったのかもしれないですね。

自ら営業して出店のチャンスを伺った

myicon編集長 ケンフィー本業にしてからは、どんな感じで活動されたんですか?

”"大石 朱美さん元々、土日もそんなに売れてたわけじゃなかったので、「やるしかない」という気持ちで、いろんな人に声かけて出店させてもらったって感じですかね

myicon編集長 ケンフィー大変だった時はありますか?

”"大石 朱美さんもうすぐ2年になるんですが、大変だったことは「コロナ禍での出店キャンセル」と「露店からキッチンカーへのオペレーションの切り替え」ですかね。

myicon編集長 ケンフィー露店を始めたのはコロナの真っ最中でしたもんね。露店からキッチンカーへのオペレーションの切り替えは、どんな感じで大変だったんですか?

”"大石 朱美さん露店でのオペレーションと、キッチンカーでのオペレーションは全く異なるので、キッチンカーを納車したタイミングで、時間を取ってキッチンカーのオペレーションを習得しないと、実際にできるか分からないんですよ。

myicon編集長 ケンフィーなるほど。納車のタイミングと出店のタイミングを調整するのが大変そうです。

”"大石 朱美さんキッチンカーがいつ頃できるかという目処が立っていなかったので、とりあえず露店で1年は頑張ろうと思っていました。

myicon編集長 ケンフィーコロナで物流も滞っていた頃ですもんね。

”"大石 朱美さんそれで年内にキッチンカーができそうだと連絡をもらいましたが、結局年内にはできないことが分かって、その時期が1番辛かったですね。
キッチンカーで出店しますと言ってしまっていたので。

myicon編集長 ケンフィータイミングが読めないのは辛いですね。

”"大石 朱美さんでも、それが功を奏して、オペレーションを習得する余裕ができました。

myicon編集長 ケンフィーキッチンカーはいつ頃納車できたんですか?

”"大石 朱美さんキッチンカーでの初営業は2月5日、お茶のさすき園さんで行いました


(車体の赤が目立ついい匙かげんさんのキッチンカー)

「いい匙かげん」の名前の由来

myicon編集長 ケンフィーちなみに「いい匙かげん」という名前は、どのようにして決めたんですか?

”"大石 朱美さん「牛すじ煮込みをやります」と決めたあと、店名を考えたのですが、牛すじ煮込み自体「和食」なので、和の名前にしたいと思っていました。

myicon編集長 ケンフィーそこから着想していかれたんですね。

”"大石 朱美さんそれで何にしようかと思って、漢字は入れたいなとか思っていましたが、まだ漠然としかなかったです。
それで、どうしようってなった時に、レシピがあってないような、食べて美味しいと思える名前にしたいと思いましたね

myicon編集長 ケンフィーレシピがあってないような、食べて美味しいと思える名前ですか?

”"大石 朱美さんそう。最終候補として「いい塩梅」と「いい匙かげん」で悩みました。それで、知り合いの方から「いい塩梅だと梅のイメージがある」と言われて、「いい匙かげん」にしようと決めました。

myicon編集長 ケンフィーそんな経緯があったんですね。

”"大石 朱美さんでも実は「さじかげん」さんっていうジャム屋さんがいるので、同じ名前はできないから一応相談をしたら、「いいですよ。同じ煮込み料理じゃないですか」って言ってくれました

myicon編集長 ケンフィーしっかり調べられたんですね。

”"大石 朱美さんはい。ただ漢字を入れたいから、「さじ」は漢字にしようと思って、「いい匙かげん」になりました。

myicon編集長 ケンフィー改めて由来を聞くと、本当にいい名前ですね。2周年が経ちますが、これからも徐々に「牛すじ煮込み」を広げていく感じですか?

”"大石 朱美さんはい、そうですね。これまで口コミだけで広めようっていうのを決めていて、SNS主体でパンフレットも作成したので、それを引き続きやって広げていけたらと思います。

キッチンカーでしか食べられないというのを目指したい

myicon編集長 ケンフィー今では酵素ジュースやキムチなど、商品のラインナップが広がっていますね。それらもレシピをイチから作られたんですか?

”"大石 朱美さんそれらに関しては、教えてもらいましたね。露店を始めたときに、簡単なジュースやお酒を売っていたのですが、コロナ禍ということもあってお酒があまり売れなくて、代わりに何か売れるものはないかと考えた時に、酵素ジュースの教室に行ったんです

myicon編集長 ケンフィーそこで学ばれたんですね。

”"大石 朱美さんはい。酵素ジュースの作り方を教えてもらう教室に行ったら、「これだ!」となりましたね。
あと、その時に、キムチも一緒に教えてもらいました。キムチと牛すじの相性が抜群にいいことが分かって、そこからトッピングにキムチを追加しました

myicon編集長 ケンフィーどんどんやりたいことが増えていった感じですね。

”"大石 朱美さんそうですね。

myicon編集長 ケンフィーますます楽しみです。ちなみに今後の展望はありますか?

”"大石 朱美さんそうですね。ジャンキーなものや甘いものが、キッチンカーのイメージだったんですが、自分のキッチンカーは、そのイメージと同じにはしたくなかったんです

myicon編集長 ケンフィー利益率の高い商品を扱っているキッチンカーも多いですもんね。

”"大石 朱美さん私はそのやり方ではなくて、「店舗」に近いお店であり、キッチンカーでないと食べれないというのを目指しましたね

myicon編集長 ケンフィーそれでかなり試行錯誤されたんですね。

”"大石 朱美さんはい。これからも試行錯誤して広げていきたいと思います。

myicon編集長 ケンフィーいいですね!素敵なお話をありがとうございました。

(取材協力: 大石 朱美 氏(Instagram)/取材・編集:ケンフィー(Instagram, Twitter))